大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和55年(むイ)122号 決定 1980年2月27日

主文

本件準抗告の申立を棄却する。

理由

一  申立の趣旨及び理由の要旨

本件申立の趣旨は、「東京地方検察庁検察官が昭和五五年二月二三日被疑者について警視庁本部に対しなした接見等に関する一般的指定はこれを取り消す。」との裁判を求める、というのであり、その理由は、被疑者は現在前記被疑事件について警視庁本部留置場に勾留中のところ、検察官は昭和五五年二月二三日に弁護人と被疑者との接見等に関し「接見等に関する指定書」(内容は別紙記載の書式のとおり。)を発していわゆる一般的指定を行ったが、右一般的指定は、刑事訴訟法三九条に違反し、憲法上保障されるべき弁護権を不当に制限するものであるから違法である、というにある。

二  当裁判所の判断

1  当裁判所の事実調の結果によれば、被疑者は、前記被疑事件につき、昭和五五年二月二一日現行犯人として逮捕され、同月二三日勾留状の発付を受け、右勾留状の執行により現在代用監獄警視庁本部留置場に在監中であること、東京地方検察庁検察官は、同月二三日に「接見等に関する指定書」(以下「本件指定書」という。書式および内容は別紙のとおり。)を発し、代用監獄の長にその謄本を交付したことが認められる。

2  そこで検討するに、本件指定書の文言によれば、検察官は、被疑者と弁護人(弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者を含む。以下同じ)との接見(書類の授受を含む。以下同じ)については、その日時・場所・時間を別に発すべき指定書により指定し、それ以外の日時・場所・時間においてはこれを包括的・一般的に禁止する旨を、本件指定書により指定したものと解する余地がないではなく、仮にそうだとすれば、右指定は違法ないしは不当なものとして取消を免れない。本来、捜査機関は、弁護人から被疑者との接見の申出があった場合には、原則として何時でも接見の機会を与えなければならないのであり、現に被疑者を取調中であるとか、実況見分、検証等に立ち会わせる必要がある等捜査の中断による支障が顕著な場合に限り、接見に関してその日時・場所・時間を指定することができるのであるが、捜査機関のする右指定は、あくまで必要やむをえない例外的措置であって、被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限することは許されないからである(最高裁判所昭和四九年(オ)第一〇八八号・昭和五三年七月一〇日同裁判所第一小法廷判決・民集三二巻五号八二〇頁参照)。

しかしながら、本件指定書は、法務大臣訓令事務規程にその根拠をおくものではあるが、その内容は、刑事訴訟法三九条三項の定める指定の方式(日時、場所及び時間を具体的に指定すべきものと解される。)とは著しく異なり、これをもって同条項にいう「指定」と解することは困難であるから、監獄の長としては、弁護人から被疑者との接見の申出があった場合には、本件指定書が発せられていることの一事をもってその申出を拒絶することはできず、刑事訴訟法三九条三項所定の指定がない限り、その接見を許さなければならないのであって(勿論、監獄の長としては本件指定書が発せられている以上、検察官に対し、刑事訴訟法三九条三項所定の指定をするか否かを問い合わせることになるが、右に必要な時間は、それが合理的な範囲内である限り、いわば事務処理のための所要時間であって、その間待たされたからといって直ちに弁護人と被疑者との接見を拒否したとみることはできないと解される。)、結局、本件指定書は、一種の事務連絡用の書面と解することができ、これ自体によっては訴訟法上何の効果も発生していないと言うべきである(現に、当裁判所の事実調の結果によれば申立人は既に二回にわたりその希望する日時に被疑者と接見していることが認められる。)。従って、検察官が本件指定書を発したことをもって刑事訴訟法四三〇条にいう同法三九条三項の処分があったものとみることはできないし、その取消を求めることもできないと言うべきである。

3  よって刑事訴訟法四三二条、四二六条一項により主文のとおり決定する。

(裁判官 川合昌幸)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例